寄生
動物のうちには、ほかの動物の体を住みかとして、その動物の栄養を横取りして生きているものがいます。
また、植物にも、生きているほかの生物の体について、その生物から養分をもらって生活するものがあります。
このような生物の暮らしかたを寄生と言います。
そして、寄生する生物を寄生生物、寄生される生物を宿主と言います。
寄生生物としては動物ではキンギョやコイ・フナなどの皮膚に寄生するチョウやクジラの皮膚に寄生するクジラジラミ、カマキリの腸に寄生するハリガネムシ、ウシ・ブタなどの家畜の肝臓に寄生するカンテツなどがよく知られています。
植物では、畑のダイズに寄生するマメダオシ、木に寄生するツチトリモチやネナシカズラ、ススキの根に寄生するナンバンギセルなどがあります。
これらの寄生植物は、葉緑素をもたないので光合成ができず、すべての養分を宿主からもらっています。
また、エノキ・クリ・サクラなどの枝の上で生活しているヤドリギや芝地などにはえてほかの草の根に寄生するカナビキソウなどは宿主から養分を奪ういっぽう、自分でも葉緑素をもっていて光合成を営み、養分をつくっています。
このような植物を半寄生植物と言います。
さらに、カビやバクテリアのなかには、生きている生物に寄生して、
いろいろな病気を起こさせるものがあります。
人間の肺炎・結核・赤痢・腸チフスなどはバクテリアの寄生によって起こり、水虫やだむしなどはカビの寄生によって起こります。
植物の病気のほとんどは、カビと、動物の寄生によって起こります。
なお、たいていのキノコ・カビ・バクテリアは生物の排出物や死骸について、その中の有機物を栄養としていますが、このような暮らしは死物寄生と言い、せまい意味の寄生とは区別しています。
こうした寄生も、食う食われるの関係と同じです。
食べる動物が食べられる動物にくらべて大形なのにひきかえ寄生する動物は寄生される動物よりも、いっぱんに小形であるてんが違うくらいです。
したがって、食う食われるの関係で述べたことは寄生についてもあてはまります。
天敵
ある動物は、決まった動物を食べたり決まった動物に寄生したりします。
この場合、食べられたり寄生されたりする動物にとって、はじめの動物は自然の敵なので、天敵と言います。
フクロウとネズミ
フクロウが住む木の下などを見ると、たくさんのネズミの骨などが捨てられているのを見かけます。
ネズミは、植林したばかりの木の芽や根などを食い荒らしてしまい、その害は非常に大きなものですが、このネズミの天敵がフクロウなのです。
フクロウはカエルやヘビや昆虫なども食べますが、いちばんよく食べるのはネズミ類です。
マングースとハブ
天敵には、鳥や昆虫のほかに、獣もいます。
沖縄でハブという毒ヘビがたくさん増えたときに、これを退治するため、インドからコブラという毒ヘビを食べるマングースを移入したことがあります。
マングースは毒ヘビと戦うときは、かまれないようにうまく体をかわし、隙を見て毒ヘビの頭にくいついて殺します。
沖縄では、マングースのおかげで、ハブを退治することができました。
しかし、ハブがいなくなってえさがなくなると、こんどは、マングースがニワトリを襲うようになり困ったそうです。
このほか、昆虫を食べる野鳥類、アブラムシやカイガラムシを食べるある種のテントウムシ類などがあります。
こうした天敵も食う食われるの関係と同じで生物の世界のつりあいに一役かっています。
弱肉強食
よく、生物の世界は強いものが弱いものを食い殺す闘争に明け暮れる世界だ、という人があります。
そんなとき、決まって思い浮かべられるのは獰猛なトラやオオカミが、か弱い子ウサギや子ヒツジを襲う場面です。
しかし、トラやオオカミはウサギやヒツジの姿さえ見れば食い殺しているのでしょうか。
満腹している肉食動物は、食物を見ても知らん顔をしていると言います。
トラやオオカミが必要なのは、生きていくのに必要な食物であり草食動物を殺して滅ぼすことが、役目ではないのです。
また、肉食動物さえいなければ草食動物は平和に暮らせるものでしょうか。
アメリカのアリゾナ州に、カイバブ高原という所があります。
面積は、東京都のほぼ1.5倍です。
20世紀のはじめごろ、この高原には約4000頭のシカがいて、これを食べるものとしてオオカミとピューマがいました。
シカは狩猟のよい獲物なので、これを保護するため、その後20年ちかくのあいだ、オオカミとピューマが人間の手で殺されました。
その結果、シカは一時およそ10万頭にまで増えました。
ところが、このたいへんな数のシカのために食物となる植物は急激に減ってしまい、おまけにシカが踏み固めた土地は草もはえないように荒れ果ててしまいました。
そして、ある年の冬には、4万頭ものシカが植え死にし病気が流行り、10万頭はまたたくまに1万頭になってしまいました。
このころになって、人々は、このシカがカイバブ高原で植物とつりあって末長く安全に生活していくためにはシカの増えすぎをふせぐしくみが必要であることに気づきました。
肉食動物は、シカの増えすぎをふせぎ、そのことによって植物をまもり、シカを飢え死にから守るという、重要な役割りを果たしていたのでした。
その後、オオカミとピューマも保護されてカイバブ高原はむかしのつりあいを取戻しました。