浮力と浮心
いま、左の図のように、木ぎれを水に浮かべた場合を考えてみましょう。
水に浮かんでいる木ぎれは重力のほかに、木ぎれが押しのけた水の重さに
等しい浮力を受けて、つりあっていることは、まえに説明しました。
このときの浮力は、どんなはたらき方をしているのでしょう。
物にはたらく重力は、その全部が重心に集まってはたらいていると考えたのと同じように浮力も、その力が1つの点に集まってはたらいていると考えることができます。
この点を、浮心と呼びます。
上の図のように、木ぎれが水に浮いているときには図の水面より下にある部分だけを取り出してこれを全部水で置き換えたときの重心の位置をもとめると、その点が浮心になるのです。
重心と浮心
重心の位置は、その物をどのように傾けても、かわりがありません。
ところが、浮心の位置は水中にはいっている部分の形がかわることによって、かわります。
たとえば、下の図のように、水に浮いている木ぎれを傾けてみましょう。
このときの浮心の位置は、斜線の部分と同じ形の水の重心の位置ですからまえとは違ったところに、ずれていることがわかります。
また、水の入った容器の場合には、容器を傾けると中の水も移動するので、重心の位置もかわることになります。
船の重心と浮力
船にも重心があって船全体の重さがその重心の位置にはたらいているものと考えることができます。
もし、船に荷物を積み込めば船全体の重さがかわるばかりでなく重心の位置もかわります。
また、船が傾いても、その重心の位置はかわりませんがもし、船が傾くことによって荷物が移動するようなことがあればこのときには重心の位置もかわります。
積み荷が一定で、その荷物も移動しないならば船がどんなに傾いても、その重心の位置はかわりません。
また、浮いている船の浮力は、いつでも船全体の重さと同じで浮心にはたらいています。
そして、浮心の位置は、まえの木ぎれの場合と同じように船の水中に入っている部分の形によってかわるので船が傾けば浮心の位置もかわってきます。
船の安定
船が傾いたとき、傾きをもとにもどすはたらきの強い船ほど安定な船と言えます。
船の安定は、重心の位置や浮心の位置によって決まりますがこの安定について考えてみましょう。
はじめに、船が水に浮かんでいるときには図のように重力と浮力とが同じ鉛直線上にある重心と浮心の位置にそれぞれはたらいて、つり合っています。
つぎに、船が傾いたときの場合を考えてみましょう。
このときの重心の位置は、まえと同じですが浮心の位置は、図のようにかわります。
そのため、重力と浮力とは同じ鉛直線の上にはありません。
このような2つの力を受けると船は図の矢印の方向にまわされるので、もとにもどります。
このときのもどりをよくするには、図のように重心の位置をできるだけ低く底に近くするのがよいのです。
いま、荷物を船の上甲板に積んだために重心の位置が上のほうにずれた場合を考えてみましょう。
船の傾きが小さいときには、この場合でも、もとにもどろうとする回転が見られます。
しかし、船の傾きが大きくなると、重力と浮力はちょうど両手でハンドルをまわすように、ますます傾きを大きくしてしまいます。
そのため、船は転覆するのです。
このことからも、船の重心の位置は、なるべく下のほうがよいことがわかります。
ですから重い荷物は、できるだけ船底に積むのがよいのです。
また、油を運ぶタンカーでは、船が傾くと中の油も移動するので、重心の位置がかわります。
そのために、船の安定が悪くなるので図のように船の内部を小さくしきって
油の移動を少なくするように工夫しています。
こうすると、船が傾いても、重心の位置の変化が小さくてすみます。
そのほか、風の力で走るヨットは船の大きさにくらべて、高くて、大きな帆をもっています。
そのため、ふつうのボートの上にこの帆をつけるとヨットの重心が高くなって倒れやすくなります。
そこで、重心を低くするとともに、船の横流れをふせぐために船の底にセンターボードという、重い鉄板などがとりつけてあります。