動力を伝える仕組み
エンジンの動力は、いろいろな装置を通って、駆動輪まで伝わっていきます。
これらの装置によって、エンジンの回転数を途中でかえたり回転の方向をかえたりしてから駆動輪をまわすのです。
クラッチ
エンジンと変速機とのあいだにあって、エンジンの動力を変速機に伝えたり切ったりするはたらきをしているのがクラッチです。
ふつうのクラッチは、2枚の円板からできていて円板のあいだにはたらく摩擦を利用して動力を伝えます。
円板のうちの1つは、エンジンのうしろのはしについている、はずみ車の内側です。
もう1つの円板は、変速機の軸に取り付けてあって、摩擦を大きくするために、おもに石綿を材料にした板がはりつけてあります。
2枚の円板は、ばねの力で、互いに押し付けられています。
そのため、エンジンがまわれば、いっしょにまわります。
ところが、クラッチペダルを踏むと、てこの仕掛けでばねが押し縮められ、互いにはなれます。
したがって、エンジンの回転は、変速機に伝わらなくなります。
クラッチペダルは、エンジンから駆動輪に動力を伝えたくないときに踏みつけます。
たとえば、車のスピードをかえるために変速機の歯車のかみあわせをかえるときや、発進・停止のときなどにはかならず踏みます。
自動車に使われているクラッチには、このほか、数枚の円板を互いに重ね合わせたものや遠心クラッチ・電磁クラッチ・流体クラッチなどがあります。
遠心クラッチは、エンジンの回転数がある値以上になると遠心力によりクラッチの摩擦板が広がりその力でクラッチドラムを強く押さえつけ、回転力が伝えられるようになってします。
エンジンの回転が遅くなると、遠心力が小さくなるので摩擦板とクラッチドラムがはなれ、回転力は伝わりません。
仕組みがかんたんなので、スクーターなどに使われます。
変速機
変速機は、大きさの違ういくつかの歯車の組み合わせでクラッチのすぐうしろに取り付けてあります。
エンジンの回転数は、アクセルペダルを踏むと気化器の中のスロットバルプが開いて毎分500~5000回転くらいまでかえることができます。
しかし、あまり遅くしたり、逆にまわしたりすることはできません。
変速機は、このエンジンの回転の速さと方向を途中でいろいろとかえて駆動輪に伝えるはたらきをします。
歯車の組み合わせをかえると、駆動輪に伝わる回転の速さをかえたり逆まわりさせたりすることができます。
そのため、自動車の走る速さをかえたり、後退させたりすることができます。
変速機の歯車の組み合わせをかえるためには、てこを利用した変速レバーを使います。
下の図で、①②③のところに変速レバーをおけば低速・中速・高速と、変速機の歯車が三段に切り替えられます。
後退するときには、(R)のところに変速レバーをもってきます。
このように、速さが三段階にかえられる変速機を前進三段後進一段の変速機と言います。
トラックやバスなどの大型自動車や乗用車の一部には前進四段の変速機が使われています。
変速機には、自動車のスピードとつながりをもつ、もう1つの大切なはたらきがあります。
かけっこをするときのことを考えてみましょう。
出発点に手をついて、合い図とともに、思いきり地面を蹴って飛び出していきます。
走っているときも、足で地面を蹴っていますが、スタートのときが、いちばん足に力がかかります。
自動車もこれと同じでスタートのときに大きな力で地面を蹴らなければなりません。
ところが、エンジンは、ある決まった動力しか出すことができません。
大きなエンジンをつけると、スタートは楽にできますが重くなりすぎて平地をふつうに走るには不経済です。
そこで、必要なときに大きな力を出す仕組みがあれば、たいへん都合がよいわけです。
変速機は、このためにも大切な役割りをはたしているのです。
それには、歯車の組み合わせによって、車軸に伝わる回転を、遅くしてやります。
すると、エンジンの動力は同じでも、大きな力が駆動輪に伝わります。
ですから、スタートするときには、変速レバーを低速の位置において駆動輪をゆっくりとまわし、駆動輪に大きな力をあたえてやります。
こうすれば、自動車は、大きな力で地面を蹴って走りだします。
車が走りだしたら変速レバーを中速または高速に切り替えて駆動輪の回転をは止め、スピードを増します。