つりあいの破れ
生物の世界のつりあいは個体群の大きさがきちんと一定していてかわらない、というのではなく、たえず増えたり減ったりしながら成り立っています。
ですから、2、3年という短い年月のあいだには著しく増えたとか減ったとかいう例は、いくらもあります。
しかし、10年、20年という比較的長い年月のあいだをとってみると、ほぼ決まったところで上下しているようです。
ところが、ときには長い年月にわたってつりあいが破れる例もあります。
たとえば、キクイムシという甲虫が、森林を破壊した例があります。
キクイムシは針葉樹に穴をあけて生活していますが元気な木は少しくらいのキクイムシが侵入しても、そのために枯れるようなことはありません。
しかし、荒らしなどでたまたまたくさんの木が倒れるとキクイムシにはこのうえない住み家となります。
木が枯れかかっていて穴をあけやすいのと折り重なった下枝のためキクイムシを食べるキツツキなどが近よれないからです。
増えたキクイムシは、大群をつくってまわりの立ち木にまで侵入し元気な木をも枯らしてしまいます。
木が枯れると、強い光と乾燥のために下草も枯れ森林に頼っていたすべての動物・植物の生活が壊されてしまいます。
そんな地域には山火事なども起こりやすく、そうなれば、何百年にもわたって、もとの森林の姿は取り戻せません。
人間の影響
人類は、いまや地球上の陸地のほとんど大部分に入りこんでいます。
直接住めない海でさえ人類の影響が及んでいます。
山を切り崩し、森林を切り払い海岸を埋めたてる事業は土地そのものをかえるだけでなく、その土地やそのまわりに住んでいるあらゆる動物・植物に大きな影響をあたえ生物の世界のつりあいを乱しています。
しかも、これがかんたんには回復できないほどに激しく乱していることが多いようです。
土地開発とならんで、工場や都市の排水や排気によって河川や海・大気を汚したり農薬によっていろいろな動物が死んでしまう害も、近ごろ、頻繁に起こっています。
こうした水や大気の汚れは環境を悪くし生物の世界のつりあいを乱します。
また、多くの農薬は、害のあるバクテリアや虫たちだけでなく、それらの天敵をも滅ぼし場合によっては回復の遅い天敵よりも害虫個体群のほうが先に回復して、思わぬ被害が起こります。
文明の進歩にともなう自然の破壊は、ある程度は避けられないでしょう。
人類の力が小さかったころは人類の活動によるつりあいの乱れも小さく、自然はいつのまにか回復していました。
しかし、人類の力が強大となったいまでは私たちは自然がどのように破壊され生物の世界に将来どんな結果が生じ、それが人類にどのように跳ね返ってくるかということを考えたうえで活動を進めなければなりません。
地球は、現在の私たちだけのものではないのです。
したがって、地球や生物界を保つのは私たちの責任です。
それを果たすためには、生物のつりあいについて、もっともっと知識を豊かにすることが大切です。