体のはたらきの調節
私たちの体では、たとえば運動をして酸素が
不足すると、呼吸がさかんになり、血液のめぐりがよくなります。
運動を少しやり過ぎると、疲れが出て、もう止めろと命令します。
けれども、その運動を繰り返して体を鍛えると
体力がついてきて、まえほど疲れなくなります。
このように、体のはたらきは、たいへんうまく調節されています。
それは、神経とホルモンとが力を合わせて助け合っているからです。
ホルモンというのは内分泌腺という器官でつくられる化学的物質で
それが血液の中に出て体の中をめぐっていくうちに
いろいろなはたらきをして体のつり合いに役立っています。
ホルモンは、ビタミンのように食物の中から栄養としてとるのではなく
体の中にある内分泌腺から必要なだけつくられるのです。
ホルモンやビタミンは、ごく少しばかりの量でそのはたらきをするのですが
それが少なすぎても、また多すぎても体に悪いのです。
ですから、何かの理由でホルモンが不足すると
自然に内分泌腺のはたらきが増し、反対にホルモンが多すぎると
内分泌腺のはたらきが止められるようにできています。
ホルモンが足りないために起こった病気のときに
医者がそのホルモンを注射したり、飲ませたりすることは必要な手当ですが
もしもそれが多すぎると、その人の内分泌液を壊してしまったりしますから注意しなければなりません。
内分泌腺の主なものは、図にしめしたようなものですが
そのほかにも、まだたくさんの場所からホルモンが出ているといわれています。
脳下垂体
神経に中枢があって、全体をまとめているように
内分泌腺のはたらきをまとめているのは、脳下垂体です。
脳下垂体は、大脳の下にくっついている豆粒ほどの器官ですが
たいへん大切なものです。
これは、前葉と後葉との2つの部分に分かれます。
後葉は血管を縮めて血圧をあげるホルモンや平滑筋
とくに子宮を収縮させるホルモン、腎臓で尿の分泌をおさえるホルモンなどを出します。
前葉は、まず、成長ホルモンをだします。
成長ホルモンが多すぎると、たいへん体の大きい巨人ができ
少なすぎると、一寸ぼうしができます。
前葉はまた、ほかの内分泌腺(甲状腺・副腎皮質・性腺など)の発育をうながし
それらのはたらきを増すようなホルモンを分泌します。
たとえば、甲状腺刺激ホルモンは、甲状腺ホルモンの分泌を増しますが
甲状腺ホルモンがあまり多くなりすぎると
その結果は、めぐりめぐって前葉の中の甲状腺刺激ホルモンを出す
細胞のはたらきをおさえてしまいます。
このようにして、体の中の甲状腺ホルモンが多すぎることも
少なすぎることもふせがれ、うまく調節されます。
同じようなことが、副腎皮質や性腺についてもいえます。
甲状腺
これは、甲状軟骨(のど笛)のところにある器官で
ヨウ素をふくむサイロキシン(チロキシン)というホルモンを出します。
このホルモンは、体の活動的なはたらきをさかんにするもので
心臓や筋肉のはたらきを強め、体温を高めます。
甲状腺のはたらきが強すぎる病気を、バセドウ病といいます。
上皮小体
甲状腺のそばについている腺で、血液の中のカルシウムの分量を整えます。
このホルモンが少なすぎると、骨や歯がぼろぼろになり
また、筋肉がひきつって、テタニーという病気になります。
すい臓
十二指腸のそばにある消化液を分泌する大切な器官です。
その中に島細胞といってインシュリンという
亜鉛をふくんだホルモンを出す細胞があります。
インシュリンは血液の中の糖が多すぎないように調節するはたらきがあって
これが不足すると、血糖が多くなり、その結果、糖尿病が起こります。
副腎
副腎は、腎臓の上にかぶさっている器官で、外側のほうの副腎皮質と中のほうの副腎髄質とに分けられます。
副腎皮質からは、コーチゾンというホルモンが出されますがこれは余ったたんぱく質を糖にかえるもの、腎臓の塩類の分泌を調節するもの一種の性ホルモンなどをふくんでいます。
コーチゾンが少なすぎると、関節リューマチのようになったりアジソン病になり、多すぎると、病気にかかりやすくなったり脳下垂体のはたらきが止まったりします。
副腎髄質からは、アドレナリンというホルモンが出されます。
これは、交感神経のはたらきを強めるホルモンで心臓のはたらきを増し、血管を収縮させて血圧をあげたり胃腸のはたらきを止めたり、甲状腺と助け合って活動的なはたらきをします。
そのほか、血液の中の糖を増したりして、インシュリンと反対のはたらきをします。
アドレナリンとインシュリンは互いにつり合って血糖の調節をします。
性腺
男は精巣から男性ホルモンを女は卵巣から女性ホルモンを出します。
男性ホルモンは、男を男らしくするはたらきがありひげがはえたり、声が太くなったり、骨組みがしっかりしたり男らしい心になるのは男性ホルモンのためです。
女性ホルモンは、肉づきをまるくしたり、やさしい声を出すようにしたり女らしい心やはたらきをさせるものです。
これらの性ホルモンは、多すぎたり、少なすぎたりすると脳下垂体のはたらきに変化を与えますから体の栄養状態などにいろいろな変化を起こすことになります。
その他の分泌腺
今まで述べたような分泌腺のほか、松果体は大脳のつけ根のすぐ上についていて脳下垂体のはたらきをおさえるホルモンを出します。
胸腺は、子どものときには体の栄養状態や成長を調節していて性腺のはたらきをとめているのですが、性腺のはたらきがはじまるとそれに役目を譲り渡して小さくなってしまいます。
また、胃腸の粘膜には、消化液の分泌をさかんにするようなホルモンや腎臓の分泌を止めるようなホルモンが出されており腎臓からは血圧をあげるようなホルモンなどが出されていることもわかっています。
そのほか、脳の中の細胞・肝臓・脾臓・リンパ節・だ液腺などからもホルモンが出されるらしいといわれています。
このようなたくさんのホルモンを出す分泌腺はお互いに助け合ったり、反対に止めあったりします。
また、ホルモンは神経のはたらきを強めたり、弱めたりするはたらきもします。
その反対に神経はホルモンの分泌液のはたらきを強めたり弱めたりします。
このようにして、ホルモンと神経とはお互いにはたらきあいつり合って、体のはたらきの調節に役立っているのです。