アメリカのベル電話研究所にいたすぐれた物理学者ウィリアム・ブラドフォード・ショックリーは1935年ごろから、結晶空管と同じような増幅作用をもたせることはできないだろうかということをひたすら考え続けていました。
すでに鉱石検波器(特殊な鉱石と金属あるいは鉱石と鉱石とを軽く接触させて高周波を整流する装置)というものがあり、真空管が実用化される以前のラジオ受信機(鉱石ラジオ受信機)に用いられていたのですからショックリーの狙いは、必ずしも的外れではなかったのです。
しかし、その前途は険しく、ベル研究所の膨大な投資、たくさんの優秀な研究員たちの努力があってしかもなお、実に15年という長い年月の末ショックリーのアイデアはようやく実をむすび最初のトランジスタ、いわゆる点接触型トランジスタがうまれたのです。(1948年)
点接触型トランジスタというのはデルマニウムの結晶の小片にホイスカー電極とよばれる細い金属の針を2本極めて接近させた位置に立てただけのものでした。
しかし、この結晶はたしかに真空管と同じように弱い電流を強くする増幅作用を持っていたのです。
ショックリー、そしてブラッテン・バーディンというふたりの協力者の見事な勝利でした。
残念なことに、この点接触型トランジスタはつくるのがたいへん難しいしショックに弱いという欠点がありました。
そこでショックリーらはさらに努力を続け1950年には点接触型の欠点をすべて取り除いたトランジスタ(電極の針を立てずに、ペースに層状に結合させたもの)をつくりあげることに成功しました。
トランジスタはこのようにアメリカでうまれたものです。
しかし、その実用化のめどがまだ立たないいうちにその技術を導入して、小型のトランジスタラジオをつくりあげたのは当時の東京通信機工業、いまのソニーです。(1955年)
トランジスタは、すばらしい利点を備えています。
しかも、その進歩はまるで留まるところを知りません。
たとえば、結合型をさらに改良したメサ・ランジスタそれよりもさらに安定したブレーナー・ランジスタそしていま話題の集積回路(IC)と、高密度集積回路(LSI)とまさに日進月歩の勢いです。