ブドウのしぼり汁を、かめに入れて密閉し、そのままにしておくとしだいに泡がではじめて、ぶどう酒のにおいがするアルコール分ができます。
これが昔から知られていた、もっともかんたんな発酵によってアルコール飲料をつくる例です。
また、食物をほうっておくと、ことに夏のあついときなどはべとべとしたり、いやなにおいや味をもつようになります。
これは食物が腐敗したのです。
発酵も腐敗も、微生物のはたらきによっておこる物質の変化ですが発酵はどちらかというと、ある原料から有用な目的で決まった物質を集めようとしておこなわれるものです。
これにたいして、腐敗は、品質や外観が悪くなって値打ちが下がるような方向に、食物などが変化した場合をいいます。
つまり発酵は、私たちの生活に役立ちますが、腐敗はこの反対なのです。
発酵
人間は、大昔から、それぞれの地方で、果物や麦や米などでんぷんや糖分の多い材料を使って、アルコール飲料をつくる方法を知っていました。
この場合、その材料の中にふくまれているでんぷんや糖分は最後には二酸化炭素とアルコールになっていくのだということだけはわかっていたのです。
しかし、これが、酵母という微生物によっておこなわれていることがわかったのは19世紀のフランスの科学者、パスツールの研究の結果なのです。
発酵のいろいろ
ぶどう酒やビールや清酒のように、アルコールをつくる目的で糖分を酵母のはたらきによって変化させることをアルコール発酵といいます。
しかし、アルコール以外のものをつくる場合にも、微生物はさかんに利用されます。
たとえば、アルコール酵母のかわりに、乳酸菌を使って糖分を乳酸にかえることもできます。
この場合は乳酸発酵とよんでいます。
このほかにも、酢酸をつくったり、アセトンやブタノールをつくったりそのほか人間の生活に役立つ、いろいろの物質をそれぞれ適当な酵母やカビ・細菌などを用いてつくらせることができこのための工業がさかんになってきました。
発酵の材料
発酵に使われる材料は、別に糖分とはかぎりません。
その目的によって、たんぱく質や、そのほかのものもいろいろと利用されています。
たとえば、我が国で調味料として欠くことのできない醤油や味噌などは、大豆や麦の中にふくまれている糖分のほかにたんぱく質が分解してできるアミノ酸やそのほか微生物のはたらきによってつくられたかおり・風味をあたえるようなものをふくんでいます。
このように、微生物や酵素を利用していろいろと役に立つものをつくる方法を、釀造とよんでいます。