かけ合わせ
遺伝のしくみを利用して品種改良をする場合かけ合わせ(交配)は最初にやらなければならないしごとです。
それには、まず、よい特徴をもったものどうしをかけ合わせます。
つまり、よい組み合わせのものをつくるのです。
つぎに、そのなかから、とくにすぐれたものを選びます。
これが品種改良に、いちばん広く使われている方法です。
かけ合わせのしかた
母親になるかぶの花のめしべに父親になるかぶの花の花粉をつけて、種を実らせます。
このとき、ほかの花の花粉がついては困るので母親にする花のおしべを、めしべに花粉がつかないうちにとってしまいます。
かけ合わせは、私たちにでも、わりあいかんたんにできるものです。
道具は、虫眼鏡・ピンセッ卜・はさみ・アルコールを入れた瓶・紙ぶくろなどです。
ナシ・リンゴ・トマト・ナスの花なら、いちばんやさしくできます。
まず、母親にする花が開くまえの日、つぼみを開いてピンセッ卜でおしべを取り除き、ふくろをかけておきます。
つぎの日の午前中に、父親になる花から花粉を集めます。
そして母親の花にかけたふくろをとり、めしべに花粉をつけてやるのです。
すんだら、また、ふくろをかけておきます。
ウリの仲間は、お花とめ花が別々になっています。
そこで、花が開くまえの日に、それぞれにふくろをかけておきます。
お花にもふくろをかけるのはウリの仲間では、ほかのお花の花粉が混じりやすいからです。
つぎの日の午前中に、お花から花粉をとり、め花のめしべにつけて、ふくろをかけておきます。
かけ合わせと品種改良
まず、組み合わせたいと思う特徴のある両親を選び、かけ合わせて種をとります。
つぎの年にはこの種をまいて、その種をとります。
さらに3年目には、孫の代を育てるのです。
すると、分離の法則にしたがって、父親の特徴をもったものと母親の特徴をもったものがあらわれますが、それといっしょに、両親の特徴が組み合わさったものがでてきます。
この、両親の特徴が組み合わさったもののなかからよいものを選びだしてほかのものとまじらないように、種をとります。
4年目はこの種をまいて、ひ孫の代を育てます。
そして、また、このなかからよいものを選びます。
これを繰り返していくうちに、私たちの望むものができてきます。
このほかに、かけ合わせでできた子の代を、そのまま利用することもあります。
ふつう、かけ合わせでできた子は両親のよい特徴を、みな、そのまま受け継いでもっています。
それで、両親よりよくなることが多いのです。
このことを、雑種強勢と言います。
トウモロコシ・トマト・ナス・スイカなどのように1つの花からたくさんの種がとれるものは、よくこの方法を使います。
しかし、これは孫の代になると分離の法則にしたがって特徴がいろいろにわかれてしまいます。
ですから、種をとるのに、毎年同じかけ合わせをしなければなりません。
種類の違うものどうしをかけ合わせて、かわりものをつくることもあります。
ふつう、種類の違うもののあいだでは、かけ合わせがうまくいかないものです。
しかし、ライムギとコムギのかけ合わせでできたライコムギのように、種ができることもあるのです。
ですから、これを利用して新しい種類をつくることができます。
選び出し
選び出し(選抜)は、品種改良でいちばん古くから使われている方法です。
古くからある作物や草花の多くは、むかしの人が野生のもののなかからよい特徴のあるものを選び出して栽培するようになり、その中からさらによいものを選び出すことを続けたことによって、今日のような品種になったものです。
しかし、古くからある品種には長いあいだに、しぜんにできたかわりものが混じっていることがあります。
ですから、こういった品種をくわしく調べて、そのなかから、かわった特徴のあるものを選び出すことができます。
このような選び出しでも、新しい品種をつくりだせます。
けれども、こうして選び出しを続けていくと最後には、本当にまじりけのないものができます。
いちどまじりけのないものができると、もう、選び出しをすることはできなくなります。
つまり、選び出しで品種改良をしていくのには、かぎりがあるわけです。
かわりもの
生物には、ときどき、親と似ていない子ができることがあります。
このような子をかわりもの(突然変異)と言います。
このかわりものを利用して、品種改良をすることもできます。
むかしは、かわりものは自然にできるものしかありませんでした。
それが、最近はいろいろな方法で人手をくわえて、かわりものをつくることができるようになりました。
しかし、かわりものは、役に立つものがわりあい少なく役に立たないもののほうが多いのです。
それで、いまは、役に立つかわりものを自由につくりだせるように研究がすすめられています。
かわりものは、そのまま新しい品種として利用することもあります。
しかし、ふつうは、こういったものを親として利用しています。
かわりものの便利なてんは、いままでになかった特徴を、うまく利用できることにあります。
自然にできたかわりもの
自然にできるかわりもので、私たちにもよくわかるものは、枝がわりです。
モモのように、花の咲く木などに1つの枝だけが色のかわった花をつけていることがあります。
このようなものを、枝がわりと言います。
枝がわりで、よい特徴のあるものが見つかれば、その枝を、さし木・とり木・つぎ木などの方法で、そのまま利用して増やすことができます。
果樹や草花には、こうしてつくられた新しい品種が、たくさんあります。
ワセウソシュウという早く熟するミカンの品種はウンシュウミカンの枝がわりですし、一重咲きの草花の枝がわりからは八重咲きのものができました。
枝がわりばかりでなく、イネなどにも、かわりものができることがあります。
いま栽培されているいろいろなイネの品種のもとになっている神力・旭などの品種は、農家の田で見つけられた、かわりものを利用したものです。
かわりもののつくりかた
植物に、ある養分をやらないでおいたり高い温度や低い温度にあてたりすると、かわりものができることがあります。
しかし最近は多くは薬品や放射線を使って、かわりものがつくりだされています。
薬品でつくったかおりもの
イヌサフランという植物からとったコルヒチンという薬は不思議なはたらきをもっています。
この薬に種を浸したり、この薬を若い芽にぬったりすると、かわりものができるのです。
こうしてできたかわりものは、たいてい花や実が大きくなり、体も大きくなるのがふつうです。
これを利用して、大きな花の咲く草花や大きくなる野菜などがつくられました。
有名なタネナシスイカは、コルヒチンで4倍体のスイカ(遺伝子が集まってできている染色体の数が、ふつうのスイカの2倍ある)をつくり、これにふつうのスイカ(2倍体)の花粉をつけて、3倍体のスイカとしたものです。
3倍体のものは、染色体が対にならないため、種が発育しません。
コルヒチンと同じように、かわりものをつくる薬としてアセナフテソやナイトロジェソリマスタードなどがあります。
放射線でつくったかおりもの
アメリカのマラーは、1927年にめずらしい実験をしました。
果物などにたかるショウジョウバエにX線をあてると、その子孫にかわりものができるという実験です。
そののち、植物でも、X線をあててかわりものをつくることが研究されるようになりました。
最近ではX線のほか、ガンマ線や中性子も利用されていてリンゴ・ミカン・バラ・チューリップなどに、その品種改良種があります。
さらに、イネ・オオムギ・野菜類・マメ類にも放射線による改良種が見られはじめています。